元の国際化を狙う中国

元の国際化を狙う中国

セミナーでの討論は非公開であったため、どのような議論が実際に行われたのかは不明である。

 

しかし、東日本大震災の直後に中国で開催されたこともあり、中国と並んで米国債を買い支えてきた日本が、震災による財政難で米国債を買い支えられなくなり、米国債そして米ドルの信認が揺らぐ、という最悪のシナリオを想定し、中国が国際通貨システム改革の「責任あるステークホルダー」になることの代償として、人民元を自由化抜きで国際化することを、米国はじめ各国が容認したのではないか、と私は推測する。

 

この推測奎畏付けるかのように、事態は推移している。

 

セミナー翌日の4月1日、元世界銀行副総裁でありノーベル経済学賞受賞者であるジョセフ・スティグリッツ教授は、英『フィナンシヤルータイムズ』紙で、周小川提案をほぼ踏襲して、SDRをドルに代わる基軸通貨とすることを提案した。

 

さらに4月18日、米格付け会社スタンダード&ファースが、米国債のトリプルAの長期信用格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ(引き下げ方向)」に見直した、翌19日、中国外務省は、「米国政府が責任ある措置をとり、米国債の投資家(明らかに中国を含む)の利益を保証することを希望する」と記者会見で述べた。

 

また中国国家外貨管理局の国際収支部門の責任者である管濤氏は、中国人民銀行発行の雑誌『中国金融』で、国際収支の不均衡を是正して外貨準備を削減するために、人民元の為替レートの弾力性を拡大し、資本取引の規制を緩和するだけでなく、人民元建て貿易決済を拡大することによって米ドルヘの過度の依存を軽減することを述べた。
さらに、中国共産党機関紙『人民日報』英語ウェブ版は、呉作憚(ゴ・チョク・トン)シンガポール上級相・元首相の談として、中国がシンガポールに人民元決済銀行を設立すると報じた。

 

呉上級相は「シンガポールは香港のライバルにならない」と語っており、人民元のオフショア市場と決済市場とを香港とシンガポールとに振り分けることが合意されたと思われる。

 

4月22日、中国の英字月刊誌『チャイナーブリーフィング』ウェブ版は、香港金融管理局の彭醒業副総裁の「中国は人民元建て対外直接投資を年内に試行するだろう」という談を報じた。

 

人民元建ての対外直接投資の解禁は、今年スタートの第12次5ヵ年計画の目標のひとつであり、今年1月28日に中国人民銀行が試行の準備を国家外貨管理局と協力して進めていることを明らかにしている。

 

人民元建てで対外直接投資が実施されると、人民元は投資決済機能を持つことになり、その国際化は急速に進む。

 

4月26日、中国銀行業協会は、内外の29の銀行を集め、貿易金融専業委員会を発足し、人民元建て決済の実務ルール作りを開始した。こうした推移をみても、セミナーで秘蜜具に議論されたことは、新しい国際通貨システム構築への重大なステップであったと推測される。

 

しかしながら、日本からは玉木林太郎財務官が参加しただけで、財務大臣も日銀総裁も欠席した。

 

ドル基軸通貨体制に依存する日本にとって国際通貨システム改革は国益を左右し、人民元の国際化は円の国際通貨としての地位を危うくする。世界最大の対外純資産国である日本は、自らの将来のために、国際通貨システム改革をリードすべきなのだが。